新たに借地契約の際に必要となる「地代の相場」を得るための方法

地代とは土地を借りる「借地人」が土地を貸す「地主」に支払う賃料のことです。

新たに借地契約をする場合、借地人も地主も双方が納得する地代を決めなければなりません。

ただし、地代を決めるに際して、借地人も地主もお互いが同じ情報・知識を持っているとは限りません。情報・知識に差異があると、一方の当事者側に不満が生じてしまい、「この地代は安すぎる/高すぎるから見直すべきだ!」「いや、そんなことはない!」とお互いの信頼関係が崩れてしまい、後々のトラブルの原因になってしまいます。

そのようなトラブルを避けるためにも、新たな借地契約に際しては借地人・地主の当事者双方とも、地代水準について一定の「相場観」を持っておくことが大事かと思います。ここでは、そんな地代の相場観を得るための方法を紹介します。

 

相続税路線価から地代相場を導き出す方法

相続税路線価とは、土地の相続税や贈与税を算出する際に使われる1㎡当たりの評価額のことで、道路に面して敷設されているので「路線価」と言います。
https://www.rosenka.nta.go.jp/

この相続税路線価は、更地価格の8割(80%)評価となっています。そして、地代相場は更地価格に対して一定の割合(利回り)が認められます。

利回りは住宅地で0.5~2%、商業地で3~5%

一般的な地代利回りは、ザックリですが住宅地で0.5~2%、商業地で3~5%の相場観があります。

利回りに「幅」があるのは、基になる土地価格がより高いほど利回りは低く、土地価格がより安いほど利回りは高くなるからです。また、この利回りはあくまで相場観であって、個別具体的に検討すればこの範囲に収まらないケースもあります。

ちなみに、住宅地に対して商業地の利回りが高いのは、専門的な話となるのですが、住宅地で適用される「小規模宅地の軽減措置(簡単に言えば税金が安くなる措置)」が商業地では適用されないからです。つまり、固定資産税額等が高くなるので地主側としても固定資産税を払うために地代を高くせざるを得ません。一方の借地人側は店舗等として利得しているので地代負担力があります。

以上から、より高い地代を設定することが可能となり、結果として更地価格に対して高い割合(利回り)となるわけです。

更地価格×利回り=地代相場

先ほど申しましたように、相続税路線価は更地価格の8割(80%)評価となっています。
そこで、相続税路線価を0.8(80%)で割り戻せば、更地価格の相場水準が求められます。

ここで注意しなければいけないのは、相続税路線価は「一方路」で道路に「等高」に面した「整形地」が前提となっていることです。つまり、借地契約をしたい土地が複数の道路に面していたり、道路と高低差があったり、不整形地だったりすれば一定の補正が必要となります。

この「一定の補正」は借地契約を設定する土地ごとにケースバイケースとなるので、ここでは割愛します。

また、相続税路線価は課税が目的で敷設されるもので、売買や賃貸を目的に敷設されるものではないという理由から、相続税路線価を0.8(80%)で割り戻した価格がその土地の実勢価格を示していない(つまり、更地価格相場の把握に当たって相続税路線価が参考にならない)レアケースもありますが、ここでは割愛します(別のコラムで紹介します)。

 

例を用いて、相続税路線価から地代相場を求めてみます。

借地契約を設定する土地の前提条件は次のとおり

  • 住宅地、一方路、道路に対して等高に接面、整形地(つまり補正がかからない土地)でその面積は100㎡
  • 前面道路に敷設された相続税路線価は1㎡あたり40万円

 

まず更地価格を求めます。

相続税路線価40万円÷0.8(80%)×面積100㎡=5,000万円

そして、地代相場を計算します。

更地価格5,000万円×利回り0.5~2%=25~100万円

これが「年間」の地代相場となります(月あたりに換算するならこの金額を12ヶ月で割り算すればよいです)。

 

固定資産税から地代相場を導き出す方法

地代を求める方法に、固定資産税=公租公課を基にした「公租公課倍率法」というものがあります。

不動産鑑定評価を行うにあたって基準としなければならない「不動産鑑定評価基準」には明記されていない方法です。導き出す手順があまりに簡単すぎるせいで、不動産鑑定評価の評価方法とは認め難いのでしょう。

しかし、大抵のものがそうですが、シンプルなものほど使いやすいですし、本質を捉えているものです。したがって、不動産鑑定士である私は、地代の鑑定評価を行う際にこの「公租公課倍率法」による地代水準を算出した鑑定評価額の検証手段の一つとしています。

公租公課×倍率=地代相場

公租公課倍率法による地代相場の算出方法は、「公租公課×倍率=地代相場」とシンプルなものです。

この場合の「倍率」は用途によって異なります。おおよその目安として、ザックリですが住宅地の場合は3~5倍、商業地は5~10倍と考えてよろしいかと思います。

例えば、用途が住宅地で、土地の公租公課(固定資産税、都市部ならばさらに都市計画税も)が50万円だった場合、50万円×3~5倍=150~250万円程度です。この金額が「年間」の地代相場となります(月あたりに換算するならこの金額を12ヶ月で割り算すればよいです)。

なお、商業地の倍率の方が高いのは、相続税路線価から地代相場を考える際、商業地の利回りが高い理由と同様です。

公租公課自体が不明でも算定可能

仮に、公租公課の額が不明の場合でも、固定資産税評価額から算定できます。例えば、税率が0.3%の都市計画税も課されている住宅地で、その固定資産税評価額が3,000万円の場合の公租公課は、3,000万円×(固定資産税率1.4%+都市計画税0.3%)=51万円と導き出せます。

あとは先ほどと同様、51万円×3~5倍=153~255万円程度が「年間」の地代相場と計算することができます。

なお、固定資産税評価額の計算する基となる「固定資産税路線価」は、一般財団法人資産評価システム研究センターが公表している「全国地価マップ」から検索することができます。

 

鑑定評価手法により地代相場を導き出す方法

不動産の鑑定評価には新たに借地契約を設定する際の地代を算定する手法が3つあります。
できるだけカンタンにご紹介したいと思います。

積算法

計算式は「基礎価格×期待利回り+必要諸経費」となります。

まず「基礎価格」ですが、基本的には更地価格と同額になります。
ただし、例えば周辺が5階建てとか10階建てなどと高度利用している土地ばかりなのに、借地契約での特約(縛り)から低層利用しかできないとしていて、その土地の価値を有効に利用していないならば、更地価格と同額ではなく一定の「減価」が生じます。

この件について以前ですが、他の不動産鑑定業者の鑑定評価に基づいて地代を設定しようと思っているけど、地代水準がどうも高いので意見を求められることがありました。
設定する地代を算定したその鑑定評価書をみると、借地契約の縛りを反映していない(基礎価格の概念を失念している)ことで地代が高いのだと具申したことがあります。
その名のとおり、基礎価格は地代の「基礎」となる価格ですから、これがズレていると当然に求めるべき地代もズレてきます。

話を戻します。

次に「期待利回り」ですが、先ほど紹介した「相続税路線価から地代相場を導き出す方法」の地代利回り程度と考えて結構かと思います。厳密に言えば異なりますが、ザックリと「地代相場を把握する」という目的からすれば問題ないです。

最後に必要諸経費です。主に土地に課税される固定資産税や都市計画税となりますが、借地契約に当たってそれ以外の維持管理にかかる費用が発生するならばそれも加えます。

計算例でお示しします。

更地価格が5,000万円の住宅地で、借地契約に当たって特約などの縛りは特になく(減価が発生していない)、公租公課は10万円とします。
この場合の積算法による地代は、基礎価格〔5,000万円×(100%-減価0%)〕×期待利回り(0.5~2%)+公租公課(10万円)=年間地代(35~110万円)となります。

賃貸事例比較法

近隣周辺などで同じような借地契約をしている地代の事例がある場合に、これらの事例の契約内容や立地条件と比較して地代相場を把握する方法です。
ただし、個別具体的な借地契約の内容を当事者以外の第三者が全て把握できる可能性は低いと考えていいかもしれません。

とはいえ、一部の情報でも把握できる複数の地代事例を入手することができれば、周辺の地代相場とかけ離れない、より明確な地代相場を把握することが可能となります。

収益分析法

借地契約をする土地を使って行う店舗などの施設から発生する事業収益を基にして地代相場を計算するもので、収益を生み出さない住宅として利用することを前提とする場合は適用できない方法です。

不動産鑑定士ならば理解している方法ですが、土地建物の施設から発生する事業収益から土地の貢献度に応じた収益を算出するなど、あまりに「マニアック」な算定式になるため、ここでは詳細な紹介を割愛します。

 

まとめ

新たに借地契約をする場合に借地人・地主の当事者双方ともが把握しておくべき「地代相場」を導き出す方法を紹介しました。

不動産の鑑定評価でもそうなのですが、1つの方法で算定した地代相場だけで結論付けるのは避けた方がイイです。

つまり、検証のためにも「相続税路線価から地代相場を導き出す方法」と「固定資産税から地代相場を導き出す方法」の両方は少なくとも使って、また可能なら鑑定評価手法により地代相場を導き出す方法も使って、地代相場を把握した方がよろしいかと思います。

 

なお、ここで紹介した方法は「新たに」借地契約をする場合を前提としています。

これまでの借地契約での地代を「見直す(改定する)」場合は、別の考え方・方法がありますが、これについては別のコラムで紹介します。

 

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