例えば、自分自身が利用する予定が特にない不動産を相続した場合、対応方法としては①そのまま放置、②寄付、③売却、④賃貸が考えられます。
一番マズイのは①の「そのまま放置」ですね。何の収入もないのに毎年固定資産税がかかってしまいます。個人的な事情でどうしても手放せないなら、それも選択のひとつとしてアリかもしれませんが・・・
また、②の「寄付」ですが、寄付先としてはその土地がある自治体か、その土地のお隣さんぐらいでしょう。しかし、自治体には寄付受入義務はありませんから現実的ではありません。また、お隣さんも「利用価値がある」「換金価値がある」というメリットがないと寄付の受け入れは難しいでしょう。
自分自身が利用する予定がないなら③の「売却」が一番オススメの対応方法です。管理する必要はありませんし、固定資産税を負担することもないからです。ただし、「その不動産が欲しい」という需要が見込めることが条件ですし、売却を焦ると買い叩かれることになり希望する価格で売却することは困難です。
自分自身で利用する予定はないけど、とり急いで手放す必要がないなら④の「賃貸」という方法も検討できます。この場合、不動産の状況によっては修繕やリフォームが必要になりますし、そもそも賃貸するにあたって「貸し出す賃料をどのくらいに設定したらいいのか?」を判断しなければなりません。
今回はいろいろな不動産の態様(ありさま・ようす)に応じた賃料相場の調べ方を紹介します。
■土地を貸し出す場合
土地を貸し出す、つまり借地する場合の賃料(地代)相場の求め方はこちらのコラムで紹介しております。
新たに借地契約の際に必要となる「地代の相場」を得るための方法
概要は次のとおり。
相続税路線価から導き出す方法
- 更地価格を求める:前面路線価÷0.8×面積=更地価格
- 地代相場を求める:更地価格×利回り÷12ヶ月=月額地代相場
- 上記の更地価格には、例えば実際は角地だったり高低差があったとしても、このような個性が反映されていません。地代を求めたい土地が「整形」「一方路」「道路と等高」でないなら一定の補正が必要になります。
- 基本的に地代相場は路線価(土地価格)に比例します。とはいえ、路線価が高いほど利回りは低く、路線価が安いほど利回りは高くなる傾向があります。
- そのため、ザックリですが住宅地だと0.5~2%、商業地だと3~5%と利回りの相場感にも「幅」があります。
公租公課から導き出す方法
調べたい土地の公租公課(固定資産税)に「倍率」を乗じて地代相場を求めることができます。
倍率の目安として、住宅地だと3~5倍、商業地だと5~10倍となります。
■住宅を貸し出す場合
不動産業者にヒアリング
「住宅」といっても、戸建住宅もあれば、マンションやアパートといった共同住宅の態様がありますが、そのどちらも賃料相場を調べたい不動産の近隣にある不動産業者へ直接ヒアリングする方法があります。急に訪問して対応してくれるの?という心配もあるでしょうが、思いのほか丁寧に対応してくれますよ。
ただし、業者によっては単なる賃料相場のヒアリングで訪問しているとわかると、ぞんざいな態度をとるケースもありますし、でまかせの賃料相場を言ってくる可能性もあります。そのため、この業者へのヒアリングという方法を選択するなら、裏を取るため複数の業者に情報提供をお願いするのが賢明です。
賃貸ポータルサイトを利用
そんな時間も手間もかけたくないなら、例えば、「SUUMO」や「HOME’S」、「アットホーム」などといった賃貸ポータルサイトを利用しましょう。どのサイトも基本的には調べたいエリアの賃料相場が記載されています。
先ほど紹介した「土地」のみを貸し出すケースだと、賃貸ポータルサイトにはあまり有益なデータが載っていないので、路線価や公租公課をベースに導き出すことになりますが、「住宅」の場合だとデータのボリューム量は豊富なので賃貸ポータルサイトを利用するのが効率的ですし有用です。
賃貸ポータルサイトの賃料相場を鵜吞みにするのはNG
先ほど申し上げた通り、住宅についての賃貸データは豊富です。例えば、「ある駅から徒歩5分」のエリアを調べようと思っても、その範囲の住宅には新築物件もあれば築20年の物件もあるでしょう。また、単身者向きのワンルームもあれば、ファミリー向けの3LDK物件もあるなど間取りもいろいろです。
そして、当然ですが例えば築年数などの条件が違えば賃料水準も異なります。そのため、各賃貸ポータルサイトに載っている賃料相場がどのような条件のデータを元にしているかを確認する必要があります。単純に「ある駅から徒歩5分」のエリアにある物件のデータをひっくるめて平均化しただけのものだと、一体何を前提にした賃料相場なのか不明です。
先ほど紹介した賃貸ポータルサイトですが、どれも一定の条件に当てはまる物件データを平均化しただけです。賃料相場の根拠となるデータ一覧が閲覧できるようになっていますから、それぞれ確認していけば賃料相場が知りたい物件(住宅)と同じような築年数や間取りといった条件の賃料相場を把握することは可能です。
ただし、それにはある程度の知識と経験が必要です。もし必要でしたら弊所で確認しますので、調べたい物件(住宅)の条件(立地のほか、築年や間取り、面積、設備など)を示していただければサクッとした賃料相場を判断しますよ。
■店舗を貸し出す場合
住宅と違って、店舗を貸し出す場合は、その前提がどのような状況にあるかにより賃料水準が大きく異なります。
つまり、一概に店舗の賃貸物件といっても
- 居抜き物件:以前の内装だけでなく設備もそのまま使える物件
- スケルトン物件:内装を一から作らなければならない物件
と状況が全く異なる物件が賃貸マーケットでは混在しており、よく「○○エリアの店舗だったら相場はこれくらい」といった賃料水準が示されることがありますが、その水準はどのような状況を前提としているのか?を抑えておかないと、自身が調べたい賃料水準が正確に把握できません。
さらに細かいことを言えば、調べる元データが路面店なのか?2階以上なのか?礼金の有無は?更新料の有無は?契約形態は普通借家?定期借家?などを確認する必要があります。
基本的な店舗賃料の調べ方
住宅以上に店舗の賃料はその状況・前提により千差万別だということを認識した上で、店舗の賃料水準の調べ方としては、先ほどの「住宅」と同様、賃貸ポータルサイトの利用や不動産業者へのヒアリングが基本的なものとなります。
店舗の家賃比率
業種にもよりますが、売上(粗利益)に対する店舗の家賃比率は「10%」程度とされています。ある程度の経験が必要ですが、立地や店舗の規模などから最も可能性が高い業種を想定し、その業種を前提に月商を見積もって、それに先ほどの家賃比率を乗じて店舗の賃料水準を見繕う方法があります。
逆に言えば、家賃をザックリ決めて、その10倍の月商が可能となる店舗なのか?を想定することで、先に決めた家賃が概ね正しいのか?を判断します。「山師」的なやり方ではありますが、普段から気になっている店舗の観察をして、客単価はどれくらい?光熱費や消耗品は?人件費は?なんてトレーニングしていれば何となくイメージがつかめるようになります。
不動産鑑定評価には、収益を生み出す不動産の賃料を決める手法として「収益分析法」という方法があります。専門的なやり方なので詳細は省きますが、考え方としてはこの「山師」的な考え方・発想と重なる部分があります。
■まとめ
不動産鑑定士による賃料の評価にあたっては、「積算法」「賃貸事例比較法」「収益分析法」という手法を可能な限り適用します。ただ、これらの手法を無暗に適用するわけでなく、今回ご紹介した賃貸ポータルサイトの利用や不動産業者へのヒアリングによって、ある程度の「あたり」を付けるところから評価の試算スタートをします。つまり、上記でご紹介した方法は、賃料の不動産鑑定評価の「さわり」となります。
モノや情報にあふれた現代ですから、賃料相場を調べるのもご自身でやろうと思えばできます。
ただし、上記で言えば「店舗」など個別性が強い用途については、より突っ込んだ知識が必要になります。そのあたりの気を付けた方が良い項目についてまとめさせてもらったつもりです。
参考になりましたら嬉しいですし、どうしてもご自身で賃料相場を調べられないようでしたら、お気軽に弊所までご連絡ください。