2025年11月27日、成田国際空港株式会社(NAA)の藤井直樹社長(前・国土交通省事務次官)は記者会見を行い、同社が共生バンクに貸し出していた約18万㎡の土地について、2025年11月30日をもって土地賃貸借契約を終了し、延長には応じないと発表しました。
【発表】成田国際空港会社「みんなで大家さん」開発用地の貸し付けを終了https://t.co/skuOpKsQMd
同社は工事を継続するための資金力が確認できないなどとして、土地の賃貸借契約を終了するとした。投資商品「みんなで大家さん」の成田空港周辺の開発を巡っては、分配金支払いの滞りがあるという。 pic.twitter.com/LRlhyan3LG
— ライブドアニュース (@livedoornews) November 27, 2025
🔴「みんなで大家さん」 投資リスクを直視しよう
•話題の「みんなで大家さん」。成田空港近くの開発事業「シリーズ成田」は、約1561億円を集めたが、完成予定から1年以上経過しても更地のまま。
• 分配金の支払いも滞っている。
•… pic.twitter.com/Z6qr1zQ7d0— ボン(BON) 高配当株と株主優待 投資! (@BON_BAYE) November 28, 2025
田原総一朗氏は、「みんなで大家さん」を運営する共生バンクグループ代表の栁瀨公孝こと柳瀬健一氏の著書『成田空港の隣に世界一の街を造る男』を読んで対談を行い、ゲートウェイ成田プロジェクトを「これは史上最大の日本改造計画だ!!」と絶賛し、出資者増加に貢献した。いずれ責任を問われるだろう。 pic.twitter.com/WHLLnhLCVh
— ポンジちゃん (@ponzichan) October 21, 2025
この土地は、不動産投資商品として広く知られる「みんなで大家さん」シリーズの事業用地の一部として、土地造成を目的に賃貸されてきたもので、NAAは(報道ベースで)2020年10月に契約を結び、契約期間は当初2023年9月まででした。その後、2025年3月末まで更新され、最終的に2025年11月末まで延長されました。このように、これまでに2度の契約期間延長が行われていましたが、今回は更新が見送られる形となりました。
この発表は一見すると、単なる「土地賃貸契約の終了」に見えるかもしれません。しかし実際には、不動産投資、とりわけ開発型投資が抱える構造的リスクを象徴する出来事といえます。
なぜ成田空港(NAA)は契約を延長しなかったのか
藤井社長は記者会見の中で、契約延長に応じなかった理由として、造成・開発が計画どおり進んでいると判断できないという趣旨の説明を行っています。
ここで重要なのは、NAAが「投資商品としての評価」や「出資者の事情」を判断基準にしていたわけではない点です。NAAはあくまで土地の貸主であり、見ていたのは次の一点です。
≪この事業は、実際に前に進んでいるのか≫
不動産開発は、次の工程が連動して初めて成立します。
- 土地の権利関係の整理
- 行政との協議・許認可の取得
- 資金調達(銀行融資など)
- 造成工事
- 建物建設
- 賃貸・運営開始
これらは直列の工程であり、一つでも滞ると全体が止まるという特徴があります。今回のケースでは、複数年にわたり造成が具体的に進展しているとは言い難い状況が続いていました。
NAAの立場から見れば、
- すでに2度、期限を延ばしている
- それでも造成が進んでいない
- 今後も確実に進むと判断できる材料がない
以上の状況で、さらに延長を認める合理性は乏しいと判断したとしても、不自然ではありません。
なぜ開発が進まなかったのか
では、なぜそもそも開発は進まなかったのでしょうか。これは「個別の事情」というより、開発型不動産投資が抱えやすい構造的問題として整理する必要があります。
まず、この事業用地は自社所有ではなく借地でした。借地であること自体が悪いわけではありませんが、次の問題が生じやすくなります。
- 土地を担保に銀行融資を受けにくい
- 結果として、開発資金を投資家資金に依存しやすい
- 資金繰りが計画通りに進まないと、工事が止まりやすい
本来、大規模な開発事業では、銀行や金融機関が融資を行い、「本当にこの事業は完遂できるのか」を厳しくチェックします。
銀行が関与しない場合、そのチェック機能は弱くなり、リスクは出資者側に集中しやすくなるのです。
分配金の仕組みを数字で考えると見える現実
次に、多くの投資家が疑問に思う「分配金」について、数字で整理します。
理想的なケース
- 投資家:1,000人
- 1人あたり出資額:100万円
- 集まった資金:10億円
この10億円で不動産が完成し、年間7,000万円の利益が出れば、年7%の分配は成立します。この場合、分配金の原資は実際に生み出された不動産収益です。
問題が生じるケース
一方で、開発が進まず、
- 家賃収入:0円
- 売却益:0円
という状態が続くと、分配金の原資そのものが存在しません。
それでも分配が続いていた場合、原資は次のいずれかになります。
- 運営会社の自己資金
- 他案件からの収益
- 新たな投資家からの出資金
この状態は、資金の流れがどこかで途切れた瞬間に破綻します。投資家から見ると「突然分配が止まった」と感じられますが、実際には止まる直前まで無理に回していた可能性が高いのです。
投資家の時間軸で見ると、何が起きていたのか
ここで、投資家の視点に立って時間軸で整理します。
- 出資直後:利回りや将来性への期待が先行する
- 分配が出ている時期:商品が順調に見える
- 違和感の芽:開発進捗の情報が乏しいことに気づく
- 不安の拡大:説明が抽象的になり、解約希望が増える
- 分配停止:資金繰りが限界を迎える
この流れは、開発型投資がつまずいた際に繰り返し見られるパターンです。
投資家が取れる具体的な対応とは何か
すでに投資している人にとって重要なのは、「過去を悔やむこと」ではなく、「これから何ができるか」です。
まず最優先で行うべきことは次の通りです。
- 契約書・約款を冷静に読み直す
- 分配遅延がどの条件で発生するのかを確認する
- 解約・償還条件が現実的かを把握する
注意すべきなのは、「一人で抱え込むこと」と「様子見を続けること」です。状況が悪化するほど、選択肢は減っていきます。
弁護士や専門家への相談、同じ立場の投資家との情報共有は、感情論ではなく合理的なリスク管理行動といえます。
今後、同様の案件を見抜くためのチェックポイント
ここからは、今回の成田空港用地問題を「特殊な事例」として片付けず、今後、同様の案件を見抜くための実践的な視点として整理します。
重要なのは、「怪しいかどうか」という感覚論ではなく、どの段階で、何を見ればリスクが顕在化しているかを構造的に理解することです。
分配金の原資は「すでに存在している収益」か
まず最初に確認すべきなのは、分配金の原資です。
- すでに稼働している不動産の家賃収入なのか
- 将来完成する予定の不動産の想定収益なのか
この違いは決定的です。なぜなら、将来の収益を前提にした分配は、必ず資金繰りに依存するからです。
開発型案件では、説明資料に
- 「完成後は安定した賃料収入が見込まれます」
- 「将来的に高い稼働率が期待できます」
といった表現が多く並びます。しかし、これは分配金が出る根拠ではありません。完成していない不動産は、投資の世界では「収益ゼロ」と同義です。
「完成・稼働型」と「開発型」を意図的に混同していないか
次に見るべきなのは、その案件が
- すでに完成し、稼働している不動産への投資なのか
- これから完成を目指す開発型不動産なのか
という点です。
特に注意すべきなのは、開発型であるにもかかわらず、完成・稼働型と同じ言葉で説明されている案件です。
- 「安定分配」
- 「毎月一定の分配金」
- 「市況に左右されにくい」
これらは、本来、完成・稼働型不動産でしか成立しにくい表現です。開発型案件でこれらの言葉が並ぶ場合、分配の仕組みが実態と乖離している可能性を疑う必要があります。
土地・建物の所有関係はどうなっているか
土地や建物の「所有者」が誰かも、極めて重要なチェックポイントです。
- 自社所有なのか
- 長期賃借(借地)なのか
借地である場合、事業そのものが不可能になるわけではありません。しかし、次のような構造的弱点を抱えやすくなります。
- 土地を担保にできず、銀行融資が付きにくい
- 結果として、資金調達が出資金頼みになる
- 資金繰りが不安定になりやすい
今回の成田空港用地も、まさにこの構造に当てはまります。
銀行や金融機関は、なぜ関与していないのか
銀行融資の有無は、「安全かどうか」を測る非常に有効な指標です。
銀行は融資を行う際、
- 事業計画が現実的か
- スケジュールに無理がないか
- 途中で資金が尽きないか
といった点を徹底的に検証します。
にもかかわらず、銀行が関与していない場合、
- リスクが高すぎる
- 担保価値が不十分
- 事業の実行可能性に疑問がある
といった理由が存在している可能性があります。
「銀行が入っていない=悪」と断定はできませんが、その理由を説明資料から読み取れない案件は、極めて注意が必要です。
利回りは「高いか」ではなく「なぜ成立するか」を考える
年7%前後の利回りは、数字だけを見ると魅力的に映ります。しかし重要なのは、「その利回りが、どの前提で成立しているか」です。
- 空室リスクはどの程度織り込まれているのか
- 修繕費や管理費は現実的か
- 工期の遅れが発生した場合、どうなるのか
これらの説明が曖昧なまま利回りだけが提示されている場合、その利回りは“計画通り進んだ場合の理想値”に過ぎないと考えるべきです。
成田空港の判断が投資家に示したサイン
最後に、成田国際空港(NAA)が契約延長を行わなかった判断が、投資家にとってどのような意味を持つのかを整理します。
この判断は、単なる契約終了ではありません。事業の外側にいる第三者が出した、極めて重い評価でもあります。
「もう1回延ばす」という選択をなぜしなかったのか
NAAは、すでに2度、契約期間を延長しています。それにもかかわらず、今回は延長を行いませんでした。
これは、
- 一時的な遅れではない
- 計画の遅延が構造的な問題である
- 時間を与えても改善しない可能性が高い
と判断したことを意味します。
不動産開発において、「もう少し待てば進む」という局面は確かに存在します。
しかし、それは進捗の兆しが見える場合に限られます。NAAはその兆しを確認できなかったということです。
投資家にとってこれは何を意味していたのか
投資家の視点で見ると、この判断は次のような意味を持ちます。
- 事業の前提条件が崩れつつある
- 計画通りの完成が見込めない可能性が高い
- 分配構造の回復が難しくなっている
つまり、「まだ何とかなる」という期待を持ち続ける材料が外部から失われた状態です。
プロが撤退する時、何を見ているのか
NAAは投資家ではありませんが、土地の貸主として、
- 事業が実際に前に進んでいるか
- 時間をかければ解決する問題なのか
- それとも、構造的に行き詰まっているのか
を冷静に見極める立場にありました。
この判断は、「理想」や「将来性」ではなく、「現時点の進捗」だけを見た結果です。
投資家にとって重要なのは、「プロがどこで見切りをつけたのか」を正確に理解することです。
本当の警告は分配停止より前に出ていた
多くの場合、投資家が強い危機感を抱くのは「分配が止まった後」です。
しかし、今回のケースでは、
- 造成が進まない
- 契約延長が繰り返される
- 最終的に延長が打ち切られる
という形で、段階的な警告サインがすでに出ていました。
成田空港の判断は、その中でも最も明確なシグナルだったと言えるでしょう。
不動産鑑定評価でいう「宅地見込地」から見た今回の問題
ここまで見てきた「みんなで大家さん」をめぐる問題は、不動産鑑定評価の考え方を知っている人にとっては、非常に既視感のある構造をしています。それは、不動産鑑定評価における「宅地見込地」という概念です。
不動産鑑定評価では、土地を評価する際、「現時点で何として使えるのか」とともに、その土地が「将来どうなるか」も考慮します。その代表例が宅地見込地です。
宅地見込地とは、将来的に宅地として利用される可能性はあるものの、
- 造成が完了していない
- インフラが整っていない
- 許認可が未了である
といった理由から、現時点では宅地として自由に利用できない土地を指します。
このような土地について、鑑定評価では決して「完成後の宅地価格」をそのまま用いません。必ず次のような調整が行われます。
- 完成後の宅地価格から造成費や開発コストの控除
- 工期の遅延リスクの考慮
- 計画どおり進まない可能性の織り込み
- 完成までに要する時間価値の減価
つまり鑑定評価は、「将来そうなるかもしれない」という期待ではなく、「現時点で制約がある」という事実を価格に反映させる仕組みです。
今回の「みんなで大家さん」問題は鑑定評価で見ればどう映るのか
この考え方を、今回の「みんなで大家さん」問題に当てはめてみます。
| 鑑定評価の視点 | 今回の投資案件 |
|---|---|
| 宅地 | 完成・稼働している収益不動産 |
| 宅地見込地 | 造成前・開発途中の事業用地 |
| 造成費控除 | 開発コスト・資金調達リスク |
| 減価要因 | 許認可・実行力・時間リスク |
鑑定評価の感覚で見れば、造成が進んでいない段階の土地は、あくまで「宅地見込地」です。
にもかかわらず、投資商品としては、
- 完成後を前提とした利回り
- 完成後を前提とした安定分配
が語られていました。
これは鑑定評価的に言えば、「宅地見込地を、完成宅地として扱ってしまっている」状態に近いと言えます。
なぜプロほどこの点に慎重になるのか
不動産鑑定評価が宅地見込地を厳しく評価するのは、過去の無数の失敗事例を踏まえているからです。
- 造成が途中で止まるケース
- 許認可が想定どおり下りないケース
- 資金が尽き、計画自体が頓挫するケース
これらは決して例外ではなく、開発型不動産では繰り返し起きてきた現実です。
今回、成田国際空港(NAA)が契約延長を行わなかった判断も、「将来どうなるか」ではなく、
- 現時点で造成は進んでいるのか
- 事業を完遂できる実行力が確認できるのか
という、極めて鑑定評価的な視点に基づいていたと見ることができます。
投資家にとっての最大の教訓
この「宅地見込地」という考え方を投資判断に置き換えると、教訓は明確です。
- 完成していない不動産は、保守的に収益ゼロと考える
- 将来の計画は、価値ではなく「前提条件」にすぎない
- 前提条件の上に成り立つ分配は、常に崩れる可能性がある
今回の問題は宅地見込地の段階で、すでに完成宅地並みの収益を期待してしまったことに、構造的な無理があったと言えるでしょう。
そして、ここまで見てきたように、成田空港の判断、不動産開発の停滞、分配金の不安定さは、すべて一本の線でつながっています。
それは、「現況をどう評価するか」という、不動産鑑定評価の最も基本的な考え方です。
次の「まとめ」では、これまでの内容を改めて整理し、投資家が今後どのような視点を持つべきかを簡潔に振り返ります。
まとめ
- 開発が進まない不動産では、分配金は構造的に不安定になります
- 分配金は「完成した不動産」からしか生まれません
- 投資判断では「お金がどこから生まれているか」を最優先で確認すべきです
不動産投資は、完成してからが本当のスタートです。その前段階で安定分配を強調する案件については、慎重すぎるくらいが適切といえるでしょう。